冷蔵庫はまず生魚の保存に利用されたのである。家庭用として普及しなかったのは日本では氷を夏の飲み物としてしか使っていなかったためである。飲み物としては平安の昔からオンザロックやかき氷にしたり、削って甘葛を掛けたりして食べていた。もちろん冬の氷を氷室で蓄えておいた天然氷である。
氷を食物の防腐に用いていることを知ったのは、明治になって初めてである。横浜で輸入品を扱う仕事をしていた中田喜兵衛が欧米での氷の役割を知って、函館五稜郭の氷を東京に運んできて明治4年ごろ売り出したのが本格的な氷販売の最初である。この時の宣伝は「西洋諸国では各種病気に用い、また魚類・獣肉・牛乳などすべて腐敗しやすいものに氷を添えておけば、いつも新鮮である」というもであった。
明治10年代に入ると人造氷の製造が始まるが、まだ氷水用だった。魚の輸送などに利用されるようになるのが明治30年代、国産の冷蔵庫が発売されたのは明治41年である。それでも冷蔵庫の普及は進まなかった。高価だったこともあるが、魚貝が中心の食事で、しかも新しい魚が簡単に手に入るためさして必要を感じなかったのである。氷冷蔵庫が普通の家庭にまで行きわたるようになったのはやっと第二次大戦後の昭和30年代である。
一方、電気冷蔵庫も昭和5年に国産がはじまっていた。だが当時は家が一軒建つほどの金額だったこともあって、ごく特別なものであった。電気冷蔵庫が一般家庭にまで普及したのもやはり昭和30年代からである。つまり氷も電気もほぼ同じ時期だったのである。それが50年代に入ると電気が氷を圧して急速に伸び、53年にはついに普及率99%に達した。
電気冷蔵庫が氷冷蔵庫と大きく違う点は製氷機能があることである。しばらく前、新聞にこんな投書が載った。
電気冷蔵庫が初めて届いた日のこと、明治7年生まれのお祖母さんが「氷がどこに入れるのか」と聞くので「氷は入れなくてもこの製氷室でできるのよ」と説明したところ、「ああ、その氷で冷やすんだね」と納得していました。若い方にこの面白さが分りますか?というのである。
さてあなたはお分かりになりますか?